ヘルメットの思い出

ヘルメットの思い出

小笠原氏のヘルメット話が予想以上に大きな反響を呼んでいるが、賢明なTHE BIKE JOURNALの読者の皆様でヘルメットを被らずにロードバイクやMTBに乗っていたりする人はゼロであると思う。とはいえ、ここ数日街中を眺めると、やはりヘルメットを被らずにロードバイクで幹線道路を走っている人がもの凄く多い。

先の週末は雨の予報が晴れで乗りやすい天気という事で、自転車に乗った人も多いだろうが土曜日の朝に自宅の前で、ロードバイクで都内ツーリング的な女子の集団(5人程)が全員ノーヘルだったのには時代の変貌を感じたと同時にやっぱりそれは危ないよ。とも思ったので、ちょっとここで、自分の経験を元にヘルメットの重要性を語ってみたい。

6年程前の話。スペシャライズドのターマックSL2がデビューした国際試乗会で、そのイベントはスペシャライズドの2008モデルの発表会だったのでMTBの試乗会も兼ねており、同時発表になったS-WORKS 2Dヘルメット(コブラ型のモノ、写真上)のテスト、同じく当時の新型シューズのテストも同時に行っていたという具合。

スペイン・マドリードの北100km程の所にある高原地帯で当時の新型EPICとFSRをテストしていた。前を行くのはスペイン、フランスのジャーナリスト軍団で中にはニコラ・ブイヨ(MTBダウンヒルの王様)と少年時代はライバルでフランス国内選手権で優勝した事もあるというツワモノも含む。自分の後ろにはグループのしんがりとしてマイク・シンヤード(スペシャライズドの創業者)が居り、日本代表として参加している以上、ここで千切れては日本の恥という状態であった。

カスティール地方特有の乾いた土と岩ゴロゴロのトレイルを時速40kmを超えるペースで下っていると、10m程前を行く5人のライダーが巻き上げた砂埃がもの凄く、コンタクトレンズに埃が入って目を細めながら、それでも極楽なトレイルを文字通り極楽気分で走って行くと、突然前のライダーがラインをスパッと変えた。モクモクの砂埃で見えなかったが、目の前に2mはあろうかという巨大な岩。その先は落差3mぐらいの崖でその先にまた巨大な岩がっ!

アッと思っても、そこはかれこれ15年もトレイルを走っているので日常茶飯事である。乾いた土にフロントタイヤを押し付けて急制動しつつ右にラインを変えて、前後スライドさせながら次の次のコーナーへ・・・・・と思ったら、アッと思った時は既に遅し、国際試乗会のバイクなのでブレーキがユーロスタイル(左右逆)・・・・・。高速で下りながらの左右逆の咄嗟のブレーキングで、もはや立ち直し不可能な所まで崩れた姿勢を直すのは不可能。目の前の岩にそのまま突っ込むと恐らく明日の太陽は昇ってこないだろう瞬間的に思い、スローモーションで岩が迫ってくるまま無理矢理前輪をロックさせてバイクを捨ててロケット発射台の如く岩の向こうへ体ひとつでダイブした。

天地が逆さまになったまま、「あー、やっべー」とスローモーションで3m下の岩が迫ってくる。首をぶつけると頸椎損傷は間違いないので、手を出して前転するように転がりながら、後頭部から岩に着地した。次の瞬間感じたのは、バキッでもなくドスンでもなく、岩の角に頭をぶつけているのに局部を押されていると言うよりヌヌヌヌと頭全体を押される間隔。このとき初めて知ったのは、良くあるヘルメット後頭部の突起は、頸椎をぶつけないために、こういう角度で突っ込んだ時にまず最初に当たるようにするために出来ている。(スペシャライズドの開発者から後で聞いた。)

ゴロゴロゴロと転がって倒れてうずくまっている所にマイク・シンヤードが「おい、大丈夫か!」と叫びながら走って来た。新型のテスト車は、ホイールがポテトチップになり、ヘルメットは見事に真っ二つに割れたが、体は擦過傷以外は大丈夫そうだ。こうして壊れたバイクを押して下山して事無きを得た。

翌日のプレゼンテーションで世界各国のジャーナリストを前に、「今回発表になった新型S-Worksヘルメットが見事、究極の安全性能を持っている事がフィールドで実証されました。苦笑」と紹介されたりもしたが、その後のプレゼンを聞けば、スペシャライズドの場合は製品化の前に3000個のヘルメットを潰して安全性の検証を重ねているらしい。

正直言って、あのときヘルメットを被っていなかったら、ひょっとするとあのときS-Worksヘルメットでなかったら、THE BIKE JOURNALは今存在しなかったであろう。人生で一番ヤバかった瞬間である。よくよく考えてみて欲しい、自転車、特にロードバイクのダウンヒル時のコーナリングスピード(単独で落車するのは主にコーナリング中だ)は400ccの中級レベルのライダーが乗るモーターサイクルと殆ど同じだ。下りでモーターサイクルと車間が縮まって行ったという経験を持っているライダーは少なくないだろう。

モーターサイクルではヘルメットは法律上の義務であるので被らないライダーは居ないし、義務でなくても死にたくないのでフルカウルの本気バイクに乗る時は全員被るであろう。例えば、たとえ義務でなくてもレーサータイプのモーターサイクルだとプロテクター付ジャケットは常識装備で、もしもツーリングにプロテクターを着けていない初心者が来てしまったら説教されて追い返されるというのが常である。

自転車においても、初心者だしペースは遅いので・・。という言い訳はやはり通用しない。下りではどっちにしてもスピードは出てしまうし、いざという時のバイクコントロールのテクニックレベルに関しては初心者と例えば5年以上の経験を持っているライダーではお話にならない。特にロードバイクの場合は、MTB、クロスバイクと比べて一般的に前傾気味のポジションであるので、とっさの時フロントタイヤがロックするかブレークした場合にスピードが出たまま頭から前に突っ込みやすい。例えば時速30kmでビックリしてフルブレーキングしたらジャックナイフになって、そのときとっさに加重を後ろに掛けつつ、ブレーキを緩めながら、路肩にバニーホップで進路変えられますか?と。

たとえ死ななくても、頭から突っ込んでヘルメット被っていなかったら顔に擦過傷を作る危険性が大幅に高くなりますよ。アスファルト路面の擦過傷は傷が残りますよ。ヘルメット被っていたら多くの場合ヘルメットが傷つくか割れるだけですけど。というのは冒頭で見かけた街中の皆さんに教えてあげたい。一人づつ走って追いかけて行って教えてあげるのは現実的ではないというか、変質者の域なので、せめて多くの人が読んでいるTHE BIKE JOURNALがあるのだから、ここで書こうと思った次第です。

余談だが、ヘルメットは常々GIRO派だったが、この事件があって以来感謝の気持ちもあってスペシャライズドに乗る時はスペシャライズドのヘルメットを被る事にしている。これが今使っているS-Works Prevail。

少し浅めの被り心地なので髪の長いライダーには微妙かもしれないが、アジアンフィットの事も考えて作られているので少なくとも自分の頭の形状では快適性は極めて高い。サドル、シューズもそうだが、ヘルメットやウォーターボトル、ウェアも含めて、スペシャライズドというブランドはやはり総合力がお世辞抜きにいい。旧型のS-Worksヘルメットより被った感じはかなり軽くなっており、更に冷却性能も高くなっている。安全性は、カタログを読むと色々書いてあるが、前述の件があるので、ここのヘルメットに関しては完全に信頼しきっているので実体験を持って語るまでもない。

話が長くなったが、ヘルメット。自転車で、ライダーの命を守る最後の砦である。被るのはもちろんだが、何を被るのか。自分の被っているヘルメットは果たして安全なのか?2万円をケチって一生後悔したいのか?夏の自転車シーズンがやってくる前に、今一度手元のヘルメットが自分の頭に合っているのか?フォームが硬くなって弱っていないか?ヒビが入っていないかを確認して欲しい。

p.s.

写真は先週の都内の幹線道路の話で、通勤していたらロードバイクに乗った可愛いお姉さんが髪をなびかせながら・・・ヘルメット被ってない。。。タイヤは白いタイヤに換えたのか、買った時に換えてもらったのか、バーテープもオシャレなのを着けているのにヘルメットとグローブがない・・。法律的に違反じゃない云々はどうでもいいんです。何のために法律があるのかというと、安全で平和な社会のためにある訳であって、法律が追いつけていないからヘルメットがロードバイクやMTBには要る。
それ以前に、単純に今回書いた話を上の女子が知っていれば、やっぱり顔に擦過傷作りたくないので被ろうかな?と思ってもらえるかもしれない。TBJはその方針からして、女性読者は2%程度なので、やはりそういった啓蒙活動を今回のように頑張って行っても効果は限定的であろう。女性読者向けの自転車誌がやらなければならない社会的責任なのではなかろうか。編集部の人が、そこまで解った上でノーヘルなのならそれを説明出来る理由が知りたい。そこまで解っていないのに本を作っているのならその事自体が問題なのではなかろうか?