宮古島トライアスロン(シングルスピード)

宮古島トライアスロン(シングルスピード)

パリ・ルーベの事をロードレーサーは北の地獄と呼ぶが、トライアスリートなら誰もが憧れる南の地獄(注:この呼び名は一般的ではありません。)が宮古島トライアスロンだ。

今年で29回目を数える宮古島トライアスロンは、その競技自体の歴史が38年であるトライアスロンにとってはクラシックレースと呼ぶにふさわしい一戦で、東アジアで最も綺麗な砂浜とされる宮古島東急リゾートのお膝元、前浜ビーチをスタートするロングディスタンス(スイムが3.0km、バイクが155km、ランがフルマラソンなのでアイアンマンディスタンスよりやや短い)のレースである。

エメラルドブルーの海を泳いで、宮古島を池間島の海中大橋から東辺名岬までぐるり1.5周するバイクコースまでルートは贅沢そのもので、一度出たらトライアスリートの心をぐっと掴むイベント作りは伊達に四半世紀以上も続いているだけの事はない。島の人にもトライアスロンは驚く程に認知されており、文字通り島総出で応援してくれるし、アスリートにも非常に好意的。

レースは、強風のため29年の歴史上初めてのスイム中止となりラン(6.5km)-バイク(155km)-ラン(42.195km)のデュアスロンでスタート。レーススタート前は前代未聞の事態に混乱が見られたが、1時間遅れでスタートすると、昨年の覇者アントン・ブロックヒン(ウクライナ)が7時間31分で連覇。女子は同じく昨年の覇者、ビーテ・ゴエーツ(ドイツ)が、連覇した。日本人最高位は河原勇人(東京)の2位。サイクリスト代表として出場した竹谷賢二(スペシャライズド)は15位、バイク3位でオリンピアンの力をトライアスリートに見せつけた。

普通にレポートすると以上。なのだが、今回は私も「シングルスピード」で出走したのでちょっとレポートらしきものを書きたい。

年明けから仕事が忙しく、そのうちに花粉症が出て来てトレーニングなど出来る状態では無くなってしまい、直前の2週間も色々あってまったく万全とは言えない状態で宮古島となった。東京マラソンとまでは言わないけれど超人気の宮古島は倍率が高く、1度逃すと次は数年後となってしまうので今回は無理を押して出走。

なぜシングルスピードなのかというと話が長くなるが、簡単に言うとどう頑張っても優勝を狙うとか、アイアンマン・コナ世界選手権のスロットを狙うとか言うのは現世では無理なので、それなら完走を争いたい。というのがその理由。イベントなので楽しんだ者勝ちです。はい。

シングルスピードとはいえ、サイクリストなので自転車にはこだわりたい。故に、ジオメトリーフルオーダーのFIREFLYのピストエンド・チタンロードレーサーに伝家の宝刀ライトウェイト・オーバーマイヤーをシングルスピード化して臨んだ。

宮古島はトータルで1000m程登り、途中で15%ぐらいの壁があるが、ギアレシオは漢の50T×11T。というのも、昨秋にアイアンマン台湾(ハーフ)に同じシングルスピードバイクで出走した際、50×17Tを選択したらヒルクライムは楽にこなせるのに、追い風の平坦と下りでギアが足りず、宮古島は台湾に比べて平坦区間が長いため、かなり重めのギアの方が楽に走れるという結論に達したためだ。前日の試走でも35km/hぐらいで平地を巡行している分には極めて快調で、ちょっとした丘も入る前に加速しておけばバイクの重量が5kgを下回っているので余裕で登れる。ギア選択的にはOKと思われた。

が、当日朝4時に起きたら、昨日とは一転、海沿いのホテルの前は髪の毛が横を向く程の「暴風」である。海は波が3mぐらいあるだろうか?案の定、会場について準備をしていると史上初のスイム中止、デュアスロン化が案内された。選手マニュアルにはデュアスロンに備えてスタート地点にはスペアランシューズを持ってくるようにと書いてあるが、28年間スイムが中止になった事が無いのだからスペアシューズなど持って来ている人はごく僅か。

しかもトランジションバッグの受け付け終了時刻を過ぎた後でのデュアスロン化の案内であったため、会場は「ビーチサンダルしか持ってないし」という選手が溢れ、トランジションバッグ預かり所の前では暴動寸前、床に座ってベアフットラン(裸足)に備えて足にガムテープを貼る選手まで出てくると言う混沌具合。「ベアフットっすか」と聞くとガムテープランナーは「シューズ返してくれないんだから仕方ないでしょ」と眉毛を吊り上げながら苦笑いしていた。宮古島は、アマチュアトライアスリートにとって、ロードレーサーのツール・ド・沖縄市民210kmよりも意味が重い。ある意味全日本選手権級である。

結局、トランジションバッグが返却されランシューズを履いてのスタートとなったが、得意のスイムを早めのグループでフィニッシュして、アベレージの速いバイクグループに頑張って付いて行って(ノンドラフティングレースだが、それでも周辺にペースメーカーになる選手が居ると走っていて全然違う)なんとかバイクを終わらせランは残った足で6時間掛けてジョギングして終了という作戦がガラガラと音を立てて崩れ落ちた。

宮古島の制限時間は日本のトライアスロンの中で最も厳しく、通常で13時間30分。スイムを平均的な1時間で上がって、バイクをノンドラフティングの1000mアップのシングルスピードでアベレージ30km/hで終えても、トランジションを考えると残りは7時間。フルマラソンで7時間あれば余裕でしょ?と思うかもしれないが、普段は3時間ちょっとでフルマラソンを走るような選手でも30℃を超える炎天下のランで大崩れすると6時間掛かりましたという世界である。全然余裕じゃない。

それが、デュアスロン化で1時間遅れてスタートなのに救済措置はなく12時間30分。アベレージ30km/hで走ったとしても、マラソンの持ち時間が6時間しかない・・・。チーン。頭の中で赤信号が点滅した。

スタート前には宮崎康子プロに声を掛けられる程に顔色が悪かったらしいが、とにかく気持ちを落ち着かせて、6.5kmの第1ランはバイクに少しでも足を残しておかないといかぬと思いジョギングでスタート。瞬間で最下位に落ち、最後尾のパトカーと宮古テレビの中継車に5km程煽られ続けるという不名誉な第1ランでしたが、それよりもバイクが心配だったのであくまでゆっくりとジョギング。宮古テレビの中継でも名前付きで「難波さん大丈夫っすか」と解説されていたらしいが、そんな事は知った事ではない。バイクに乗り換えると、どうしようもない強風。感覚的に10-13m/sぐらいの風が正面から吹いて来て、50-11Tでは踏むにも踏めずどうしようもない。頑張って踏み続けて1時間目は強風でアベレージ26km/h程。2時間目はヒルクライムがあるのに追い風で30km台後半のアベレージ。

意外に強風でも50-11Tでもいけるんじゃ?と勘違いした矢先に、宮古島南東部の連続するアップダウンで足を使い果たして、インギャーの壁(15-17%ぐらい)で蛇行しながら全力で引き足を使ったら足の腱がブチッ(脳内)と音を立てて激痛が・・・。ロングディスタンスのトライアスロン(走行中に手足が浮腫む)に備えて、わざわざ1サイズ大きなシューズを履いて引きまくったのが原因のようである。そのまま登りきった先で激痛で次の登りがどう考えても登れないので20分程座り込む。次第に痛みが治まって来たので、片足だけで踏んで(回してと言いたいがシングルなので回せない)なんとか走り出すも島を1周回った90kmポイントで、どう考えてもこの足じゃ5時間台でラン出来ないよねと心が折れて本日の宮古島デュアスロンDNF決定。100km関門で計測チップを返上して撤退。

倍率の高い宮古島なので、しっかり練習して来たのに選考に外れてしまった選手の方のお気持ちを思うと誠に申し訳ないのですが、宮古島の強風と壁とシングルスピードに勝てませんでした。ローリング土下座。

シングルスピード・アイアンマンって冗談でしょ?それ?と思うかもしれませんが、普通に踏んで行ってはランがまったく走れないどころか歩けなくなるので、6時間や7時間のランの持ちタイムではとても完走出来ません。10時から2時を使うようなペダリングや、地形図と天候を睨んだギア比とホイールの選択、高回転ペダリングに耐えるクランク長やフォームなど、色々と考える事がTTバイクよりもあり過ぎて意外に奥深いスポーツなのであります。完走する事を楽しみたいのであれば問答無用に楽しめるのは間違いありません。

次はアイアンマン・フランクフルト(7月)に、今回の失敗に学んで壁(アイアンマン・フランクフルトには石畳のミュールがある)は担いで走れるシューズで出てみようと思います。

ちなみに、今回の宮古島デュアスロン化、参加選手からは色々な声が聞かれましたが、波はともかく風が原因の時化(しけ)具合を見ると、海流もあるので第1ブイで選手が詰まるのは目に見えており、先週の石垣島トライアスロンも同じような時化のあるコンディションで溺死された方がいた事を考えると、主催者判断は賢明であったかと思います。お亡くなりになられた方のご冥福をお祈りしております。

掲載前に、赤ペン小笠原先生に読ませた所、下記のような赤ペンが帰ってきました。出直してきたいと15年以上言い続けている気がするが、今回も次戦までに出直してきたい。

赤ペン小笠原先生(シングルスピード現役全日本チャンピオン)からの教え

・最低でも歯数違いのチェーンリング1枚、スプロケ3枚は持っていく事。コースプロフィールを鵜呑みにせず、天候までを考えて

・ゆっくりのジョギングは体重が足に乗ってる時間が長くなるので、結果的に筋疲労を起こすので、ある程度のペースで走った方が足が残る

シューズは距離に関係無くしっかりフィットした物を。シューズ内の足の遊び調整はベルクロとラチェットで行う。足が左右に動く分にはダメージは受けないが(クリートはそもそも左右に動くし)、前後に足が動くと膝やアキレス腱に負担が掛かる。

・あえてクランク、シューズを柔らかい物にするだけでもロングは後半に足の残りが変わってくるのでフランク(シュレック)フルトに向けて精進しましょう。

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